私は20代のすべてをかけた仕事が思い通りにいかず、30代も半ばに近づくと、心機一転、私は腰を落ち着けて塾業界でやっていくことにしました。その分野以外に、すぐに自分を生かせる方法が思いつかなかったからです。
大手フランチャイズ個別指導塾の雇われ教室長として塾業界でのキャリアを始めるわけですが、
- 塾側は指導ノウハウなど全く持ち合わせていない
- 自称オリジナルテキストは、教材会社に依頼して表紙のみ変更
- 本部の会議では、いかにして母親の財布の紐を緩めさせるかの話のみ
- 上から指示してくる本部スタッフがすぐに辞めていなくなる
- 授業料の安さを売りにしているが、大学生による授業の質を考慮に入れ、定期テスト対策等の追加料金を含めるとむしろ高額
- 大学生講師の学力の低さ、意識レベルの低さ(掃き溜めに鶴といいますが、もちろん、素晴らしい学生講師も2,3人いました)
- 通塾する生徒の基礎学力のなさ、吸収力の低さ(意外とかわいかったりはするんですが)
最後の点ですが、定期テスト対策を必死でやってあげて、その対策がほぼ的中していても、全く解けずに戻ってきますし、基礎学力も何も持ち合わせていない生徒に対して教科書準拠問題集を指導するためには、それよりも前の知識が必要でした。
逸話としては、恐ろしく計算が苦手な中3の女の子がいたのですが、九九を知らないということが最終的に判明したことがありました。本当なら先に計算をしっかり理解させるべきなのに、それができていないために彼女にとっては無駄な時間を過ごさせてしまうことになりました。できていないのであればどこまでも下げて指導していくべきです。しかし、多くの塾では場当たり的で九九のできない生徒に方程式を教えるようなことをしているわけです。
この塾での仕事は、失望、落胆、怒りでした…
それでも 腰を落ち着けて塾業界でやっていくことを決めていた私は、
独自カリキュラム+独自選定の市販参考書で初歩の初歩から生徒たちを指導することにして現状を変えようとしました。(歩学舎の原型はここから始まったのです)
そうこうしているうちに、どこで噂を聞きつけてきたのか、本部スタッフ(この後すぐにいなくなる)がやってきて、私が独自カリキュラムの提供を通じて私的に利益を得てないかを詳細にチェックしました。私が1円も利益を得ていないことを知るとそのスタッフは私に言いました、
「あなたってすごい人ですね」
まあ、本部からすると 自分たちの指定する教材を使わない教室長は目障りだったのでしょうが、自分たちがまともな教育を提供できないから、こちらが現場で奮闘しているのに、それを応援するどころか、このように邪魔をしてくるわけです。
そのような社風をもったこの塾チェーンにおいて(チラシでは教育熱心をアピールの厚顔無恥)、生徒のためにいい授業を提供しようと努力する一教室長の姿がこのスタッフの目には稀有に映ったのでしょうね。
このように私なりに前向きに努力をしていましたが、
「どうして私は両手両足を縛られた状態で戦わねばならないのか」
という思いも出てきました。
そんな時に、奈良県の個人塾(個別指導)が高校部の責任者を探しているのを偶然に目にするのでした。一軒家で塾をやっているというのが、それまで東京や大阪の大手の塾の形態しか知らなかった私にとっては驚きであり、個人塾でかなりの生徒数を集めていることにも興味をもった私は採用面接を受けることにしました。
その個人塾は、徹底した高校受験内申対策が売りの塾でしたが、採用面接で、前述の独自プログラムによる教育を主張した私はなぜか採用されてしまいました。高校部の責任者のポストだからだったと推察します。話を聞いた当初は断る予定だった私も新天地での高校部創設という仕事に魅力を感じて引き受けることとなります。
自分の学生時代の学習経験、前の塾での指導経験とから、
初歩の初歩からこちらがきちんと指導することで、前向きにコツコツと努力して一つ一つの内容をしっかりと府に落とし、それらを組み立てることにより、自分の頭で様々な問題に対処することのできる人材、そしてその当然の帰結として、学校の定期テストも自力でやることのできる人材、さらには難関大に詰め込み学習などせずとも合格できる人材を育成するための教室を目指しました。
ところが、その塾の既存の中学部は、副教科まで面倒をみる徹底ぶりで、定期テスト前の日曜日などは朝から晩まで定期テスト対策の手助けをする教室であり(アリとキリギリスでいえば、夏の間中、遊びほうけたキリギリス様熱烈歓迎みたいな感じですね)、私の目指す塾とは相容れないものではありましたが、講師間で人間関係のゴタゴタがなかったせいか、お互いに歩み寄ることはなくとも、それでいてお互いに様々な面で助け合うこともあり、不思議なバランスを保ちながら居心地のいい数年が過ぎるのでした。
学校のテストの面倒を見てあげるという需要はあったと思います。しかし、それでは大学受験で成果を出すための実力がつかないということも自明の理でした。高校部を任されていた私からすると、中学部までのやり方とは方針が合わなくなってきました。
そこで私はプロ家庭教師としての活動も平行して行うようになります。
最初の仕事は、前の家庭教師が首になった東大寺学園高3の英語指導です。しかし、実力としては中学生レベルだったので、当然、中学生レベルからやり直しです。この子の指導はうまくいきました。まさに私が理想としている指導ができて、それを求めているご家庭がいることを肌で感じました。(この生徒は現在、公認会計士の大先生です 笑)
別な家庭教師機関でしたが、その後、これまた前の家庭教師が首になった西大和学園の高3生でした。指導についてのクレームが多いということで、本部が恐れていましたが、それは指導の仕方に問題があっただけで、きちんとした指導をすれば、何の問題もありませんでした。そういうご家庭等に派遣されていくうちに、私は私の指導に対するニーズが確実に存在しており、そのニーズを満たせる教育機関がほとんどないことを確信しました。
子どものテスト対策をしてほしいという需要はたしかにあるでしょうが、大学入試の現実は塾にテスト対策を頼っているような生徒を落とそうとしているのです。私が塾でテスト対策はしないのはそういう理由があるからです。
そうして、誕生したのが歩学舎なのです。
歩学舎は、前述の私の教育哲学を塾の隅々にまで徹底させ、これまで通り高校生はもちろん、早くから私の学習法を身につけたい中高一貫校の中学生も受け入れる塾として生まれたのでした。